またまたお相撲も始まってしまいましたが、こそこそと読書も続けています。
ハヤカワの文庫の新刊で、上、中、下巻と三冊に渡る大作小説の
『深海のYrr(イール)』
が、読み終わりました。
うーん、人間が実は宇宙よりもその真実を知らないといわれる深海をテーマにしたこの作品。
Yrrの正体が明らかになっていくにつれて、人類という種族の存続がいかに危うい地盤(病気や地球の環境)のもとに立っているかが明らかになっていっていくというお話自体は、まさに私の大好物といえるものなのですが、
私の思考は、ハリウッドを初めとするアメリカの文化に完全に毒されてしまったということなのか、
物語の大筋以外の、主要な登場人物の人生や悩みなどが描かれていくシーンで、「なにか違う…なにかちょっと…」と違和感を感じたまま、どうもしっくりと感情移入できないまま、なんだか不完全燃焼という印象で、読み終わってしまいました。
ドイツの作家さんということで、ヨーロッパ的なクールで大人っぽい感情の揺れをうまく描いている、と言い換えることもできるのでしょうが、こうしたSF巨大スペクタクルなお話だと、ストーリーに集中するためには登場人物の描写はもっと単純でいいのに…、と思ってしまうのかもしれません。
(背後では地球規模での大変な事態が起こっているというのに!)繊細な人物描写&クールな感情描写を合間合間に挟まれると、勢いが削がれるというか、「次は!この後はどうなっちゃうの!!??」というようなストーリーに特化した興味が持続できなくて、そこがジレンマというか、(私的には)残念な印象です。
文庫の帯には太字で『大型映画化決定』などという文字が出ているけれども、
アメリカ、という存在を完全に悪役に仕立てたこのお話、
きっとハリウッドではとてもじゃないけど制作してくれないだろうから、ドイツを中心に、ヨーロッパ資本を集めて映画を製作するってことでしょうか?
☆
新刊でハードカバーの本を買ったのに、本棚に積んだまま、2年近くも放置していた本がありました。
『数学的にありえない』
という本です。
ひょっとして、もう文庫も出ちゃったでしょうか?
『深海のYrr(イール)』
の読後感がいま一つすっきりしなかったことから、もう一つなにか、もうちょっとなにか読まないと…と半ば禁断症状に襲われたような感じで、本棚から発掘しました。
数学を初めとする理系の教科が本当に苦手なのだけれども、物理学の新説なんかを取り上げた小説を(意味もほとんどわからないまま)「へえー、なんかすごい!」と、読むのは大好きな私、
またまた(恥)…、本の帯の
徹夜必至の超高速超絶サスペンス!
なんていう文字に つられて、まさに衝動買いしたのです。(2年前だから…、愛知県に引っ越す前ってこと…一緒に愛知県に引っ越して、また一緒に関東に戻ってきて…)
でも「数学的にありえない」なんていうまさに理系そのものずばりのタイトルに、
「ま、もうちょっと後で、ゆっくり時間のとれる時に…」
と後回しにしたまま、結局2年以上も放置することに。
やっとのことで今回読んでみたら!これが!
すっごく面白かった!
癲癇の発作に苦しむ主人公のデイヴィッドのPOVで始まるこのお話は、冒頭からとにかく出てくる主要登場人物の全員がどうしようもなくとりかえしのつかない事態にはまり込んでいってしまうという描写が続いて、この先お話がどう転がっていくのかもわからないまま、
「このままちゃんと読んでいけるの…?」
と心配になりましたが、
読み終わってみると、「まさに私が読みたかったのはこういう本だった」と実感できるお話になっていました。
数学的な確率論(ちょっと先日観た映画の「ラスベガスをぶっつぶせ」を彷彿とさせるような)と量子力学などを絡めて、CIAやFBIや北朝鮮の工作員なんかが出てきたりして、
ええっ?!そこからそういう展開で、そういう結論になっちゃうの?!
と、(数学的なことは、ちっともわからないにも関わらず)なんだかわかったような気分で、ワクワクと物語を追いかけていけるという、娯楽として本を読んでいる読者に優しい、ある意味ではまさにアメリカ的なエンターテインメント作品になっているといえるのかもしれません。
最近SF小説のテーマとしては何度も遭遇してきた「量子力学」ですが、
この「数学的にありえない」での使われ方は、なんというか目の前でマジックを種明かしされたような感じで、目からうろこが落ちるとはこのことか!という感じも味わいました。
確率論にしても、量子力学にしても、根本的にどうしてそういうことになるのかについてはちっともわかっていないし、理解もできない私なのですが、この小説の中で出てくる噛み砕いた説明を読むと、「なんか少しわかったかも…」という気分の浸れるというか。
今、グレッグ・イーガンの超ハードSF、『宇宙消失』を読み返したら、もう少し理解できるのかも…とも思ったりもしているのですが…、やっぱり無理かな…。
量子力学をテーマにしたSF小説というと、カナダ人の作家、ロバート・J・ソウヤーの
『ホミニッド(原人)』&『ヒューマン(人類)』
量子コンピューターによって繋がったパラレルワールドから、文明を持つまでに進化したネアンデルタール人の博士がやってきて…、というお話。
そういえばこのシリーズは三部作になるということだったけど、三作目ってもう発表されたのかな。
なんかも面白かったけど、一番のキーになっている『量子コンピューター』というものの根本的な概念がどうしても理解しきれなくて、歯がゆい思いをしたものです。
でも、SF、ってやっぱり面白い!
あー、また本屋に行きたくなってきた…。
2 件のコメント:
こんばんは。時々拝見させて戴いております。
『数学的にありえない』気にはなっていたのですが、いまいち手に取れてなかったんですよね。そんなに面白いのでしたら読んでみようかな、という気になりました。
そういえば量子力学って、学生時代に単位は取ったけど、本質的な処は全然理解出来ないまま終わってしまいました。シュレーディンガーさんは女好きだったか、しょーもないことしか覚えてないです(--;
イーガンも、邦訳が出たものは一通り読んでいると思うのですが、『宇宙喪失』が一番訳わからなかったです....
ayuさん
『数学的にありえない』
主人公デイヴィッドの癲癇の発作に無理やり付き合わされつつ、そんなデイヴィッドがどんどん奇妙でとんでもない状況に巻き込まれていく上巻は、かなり体力を消耗させられるのですが…、
量子力学の単位を!?
シュレーディンガーは女好き!?(笑)
イーガンの翻訳を全部読破?
そんなayuさんならきっと無理なく楽しめる作品だと思います。
確率論の歴史が天文力学につながり、それがさらに量子力学の理論にも対を成す形で繋がっていくんだ!という目の覚めるような展開に、
イーガンの(本当に訳のわからなかった)『宇宙喪失』もですが、
(これ自体もかなり面白かった)科学ノンフィクションの『ビッグバン宇宙論』という本なんかも、今もう一度読み直したらもっと深く理解できるのかも…、
なんていう気分に浸っているところです。
読書って本当にキリがありませんね。
コメントを投稿